第17話:【現在】花火大会にて② (あの時、一番好きだった君に。)

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 「ママー! はやくー!」
「こらこら。あんまりはしゃぐと転ぶわよ」
「だいじょーぶだよ! なつの、かきごおりとからあげたべたい! おみやげはわたあめ!」
「そんなに食べるの?」
「だって、たのしみにしてたんだもん!」
「夏乃、パパとわたあめ半分こしよう?」
「いっぱいいろのはいってるやつね!」
「わかった。好きな色持っていて良いぞ」
「やったぁ!」

 朝から夏乃のテンションは高い。だいたい、午前中に屋台を巡って、花火は家から見ることにしている。マンションの玄関ドア前の共有フロアから、よく見えるのだ。初めは『近くで見たい』とせがんだが、人混みに疲れるのか言わなくなった。有り難い。
 航河君から連絡があり、直人と一緒に花火大会に行くことにしたそうだ。時間は聞いていないが、もしかしたら会うかもしれない。

“会えたら、ちょっと嬉しいかも”

 期待はせずに、会場へと向かった。

「相変わらずの人だねぇ」
「そうだな。夏乃、パパとママから離れるんじゃぁないぞ」
「わかってるよぉ」

 しっかりと夏乃と手を繋ぎ、その後ろをひろ君が歩く。横と前から見るスタイルだ。こうすれば、私もひろ君も見失いにくい。手を振り払われても、2人で対応出来る。子どもの好きなモノが、この会場にはそこら中にあるから、念には念を。
 まだ朝方だからか、これでも夜に比べれば、人は少ない方だった。夜になると、流れに逆らって歩くのは難しくなる。自分が子どもの頃、友人達とこの花火大会に来て、友人の妹が浴衣だったが下駄をなくした。それは見つからず、背負って帰ったのを覚えている。

 私はこの、食べ物のお店が沢山並んでいる感じが好きだった。気軽に買うことが出来て、目の前で調理をしているこの感じが。昔、ハワイに行った時の、朝市のマーケットもたまらなく気分が高揚した。ああやって、幾つものお店に目移りをしながら、好きなものを選ぶ。食べ歩きをしながら、雰囲気も丸ごと味わうのだ。

「楽しそうだね、千景、目がキラキラしてる」
「そう? やっぱり、このお店の並んでる感じがいいのよね」
「だから、海外に行きたい?」
「んー、それもある。自炊せずに、屋台でご飯済ませるところもあるでしょ?」
「いつか行くか」
「うん、約束」
 この約束が、守られるかは分からない。でも、楽しみにしながら過ごすのも悪くないと思う。

 人の流れに沿って、入り口から奥へと進んでいった。夏乃が立ち止まる度、私の財布からお金が旅に出て、夏乃の手には、彼女の好物が増えていく。

「なつのしあわせー!」
「ちゃんと食べるのよ?」
「はぁい」

 この嬉しそうな顔を見られるのだ。今日の財布の紐は緩い。

 ヴーヴヴ、ヴーヴヴ

“ん? 誰だろ”

 kiccaを開く。差出人は航河君だ。

『千景ちゃん発見!』
「ええっ?」

 思わず声を上げて辺りを見回した。

「千景ちゃん!」

 声の方を向く。そこにいたのは航河君と、それはそれは懐かしい……

「直人!?」
「久し振り千景ちゃん! 元気だった?」
「元気だよ! 直人は? 元気?」
「元気元気。あれだね、航河の言う通り、千景ちゃん全然変わってないね」
「有り難う? 直人は相変わらずイケメンじゃん」
「そう? 老けたと思うけどねー」
「そんなことないでしょ」
「いやいや」
「ママー?」
「あ、ごめん!」

 ぽかんとした顔で、ひろ君と夏乃がこちらを見ていた。

「私の娘の夏乃と、旦那のひろ君」
「こんにちは! ななはらなつのです!」
「こんにちは、七原尚宏です」
「村井直人です、千景ちゃん結婚したんだねー、おめでとう!」
「ありがとう!」
「娘ちゃん可愛いね!」
「やったね夏乃」
「おにーちゃんありがとう! おにいちゃんもかっこいいね!」
「ありがと」
「そちらは、先日千景を車まで送ってくださった方ですよね、有り難うございました」
「桐谷航河です。いえ、とんでもないですよ。危ないですしね」
「ねぇパパ、なつの、スーパーボールすくいやりたい」
「えっ? 仕方ないなぁ。千景、ちょっと待ってて」
「う、うん、わかった」

 夏乃を連れて、5件ほど先に見える屋台にひろ君は向かって行った。