夢を見た。
航河君が、私の隣を歩いている夢。
今の話ではない。きっと、2人とも、昔の姿をしている。だって、あの頃の航河君が、目の前にいたのだから。
何を喋ったかは覚えていない。でも、とても楽しく話をした気がする。
何処かで、この時間が続けばいいと、そう思っていた。懐かしくて、暖かくて、少し、甘酸っぱくて。やはりこれは、、所詮夢である。
目が覚めたら、そこはいつもの私の家だったから。
「ママ―! おはよー!」
「夏乃、おはよう」
「パパがね、ごはんつくってくれているよ。はやくはやく!」
「はいはい。顔洗ったら行くから。先に食べていて」
「はーい! オムレツあるよー!」
オムレツは夏乃の大好物だ。オムレツなら、嫌いな人参もピーマンも一緒に食べられる。栄養もあるし、重宝している。
眠い目をこすりながら、洗面所へと向かう。鏡に映った私の顔は、疲れた顔をしていた。
“飲み会は当分いいや……”
冷たい水で顔を洗う。まだぼーっとした脳みそには良い刺激だ。
“なんだか懐かしい夢だったな”
まだ、頭は働いていないらしい。うっかり歯磨き粉と洗顔フォームを間違えるところだった。
「おはよう千景」
「ひろ君おはよう」
ダイニングへ向かうと、美味しそうな匂いが広がっていた。テーブルには、オムレツにトースト、サラダとコーンスープが並べられている。
「ママ、おいしいよ、はやく、たべてたべて」
「うん。いただきます」
学生の頃から1人暮らしをしていたひろ君は、ずっと自炊をしていたと聞いている。それに、大学時代はファミレスのキッチンでバイトをしていたそうだ。だから、料理の手際も良いし、味も美味しい。たまにお菓子を作ったりもするから、台所に立つことも好きなんだろう。
「どうしたの? 千景。なんか、ずっとぼーっとしてる」
「いや、なんか凄く眠たくて」
「昨日お酒飲んだ?」
「ううん、飲んでない」
「疲れたのかな」
「そうかも。飲み会久し振りだったし、隣のセクハラ野郎は煩かったし」
昨日の先輩のことを思い出したら、何だか無性に腹が立ってきた。
「今日はゆっくりしたら? 予定もないし」
「そうする」
温かいコーンスープに癒されていると、夏乃が私の方をじっと見ていることに気が付いた。
「夏乃どうしたの?」
「なつの、こうえんいきたい!」
「ママは疲れてるからなー、ご飯食べたら、パパと行こうか」
「わーい! パパといく!」
そう言って、夏乃は勢いよくオムレツを頬張った。
“可愛いなぁ”
ご飯を食べた後、有難く夏乃の公園行きをひろ君にお願いして、私はまだパジャマのままもう一度ベッドへと転がった。
“あれ。航河君から返事来てる”
『昨日はお疲れ。結局、二次会に連れていかれた。タクシーで帰ったから、出費が。そういえばなんか、千景ちゃんとの関係聞かれたけど、バイト仲間って答えたよ。』
“うえっ、皆そんなことに興味あるの?”
航河君の言っていることは正しい。でも、一つだけ、違うといえば違うことがある。
確かに、私と航河君はバイト仲間だった。それ以上でも、それ以下でもない。だが、ただの友達かと聞かれると、きっと私達を見てきた人はこういうだろう。
「友達以上、恋人未満。寧ろ、付き合ってない方がおかしい」
と。
私達が付き合うことはなかった。
──告白したんだ、私は。航河君に。
それがただ、振られて終わっただけである。