第11話:【現在】歓迎会① (あの時、一番好きだった君に。)

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 ”どうしてこうなった……”

 今日は歓迎会。私の隣の席には、酒が入ると下ネタ製造機になるとよくわかった先輩が座っていた。そんなに会話したこともない。あまり喋っている場面を見たことが無かったので、無口な人なのかと思っていたが、お酒が入ると変わるタイプだったらしい。
 今もまだ、その隣の上司と一緒に、絶賛下ネタ連発中であった。会話にも入らず、ただ目の前にあるタコの唐揚げをつまみながら、ウーロン茶を飲んで場を過ごしていた。

“あぁ……タコの唐揚げが美味しい……”

 既に開始から1時間半ほど経過していた。開始が18時15分と早かったのは有難かった。席の時間は3時間なので、最後までいたら21時を過ぎることになるから、夏乃の寝る時間になってしまう。何時に出れば、21時までに家に着くだろうか。

 ヴーヴヴ、ヴーヴヴ

“あれ。ひろ君からkiccaだ”

『夏乃がママを迎えに行きたいっていうから、車で迎えに行くよ。何時に終わるんだっけ?』

“えーっと。『21時までが一応席の時間。私は20時頃にお店を出るつもりだよ。一応、住所と地図送るね』”

 お店に来る前に調べていたお店の情報をひろ君に送る。

“あ。すぐに既読付いた”

『りょーかい。もう少ししたら出るよ。着いたらまた連絡する』

“はいはい。『有り難う』と──”

「あれ、七原さん旦那からkicca来たの?」
「え、あ、はい」

 呂律は回っているが、顔を真っ赤にした先輩が、下ネタをやめてこちらに話しかけてきた。

「最近どーなの?」
「どうって……何がですか?」
「何って、そんなの決まってるじゃん? 旦那との、夜の営みって奴?」
「は?」

 ニコニコ、いや、ニヤニヤしながら、凄いことを聞いてきた。遠慮する必要はない。無視しよう。

「ねぇねぇ。そんな気にする歳でもないでしょ? いーじゃん」
「ほら」
「子どもだって生んでるんだしさぁ」
「減るもんじゃないし?」
「そうですねー、私の中の先輩の好感度が最低ラインをより下に今突破しました」
「ウソー? そんな大したことじゃないでしょー?」

 今度はヘラヘラ笑っている。しまった、全て無視すれば良かった。先輩の顔を見て、若干の後悔が私を襲う。

“……むかつくわ”

「お疲れ様です。挨拶に来ました」
「お、お疲れ桐谷君。えらいねぇ、ちゃんとグラスとビール瓶持ってる。飲んで飲んで」
「有り難うございます。いただきます」
「千景ちゃん、ちょっと此処、いい?」
「どうぞどうぞ」

 心の声が表に出そうになった時、航河君が先輩との間を割って入ってきた。なんという気配り。単純に本当に挨拶回りをしていたのかもしれないが、先輩との間に入ってきてくれるなんて、私にとってはファインプレー以外ナニモノでも無い。

「桐谷君は、この業界長いの?」
「いえ、転職してはじめてこの業界に来たんで、そんなに長くはないですね」
「そっかあ。でも、要領いいよね。助かってる」
「有り難うございます。ずっとこのプロジェクトなんですか?」
「俺はねー……」

 ペラペラと話す先輩を見て、下ネタの不安が去ったことを確認した。暫くは、航河君相手に自分の過去話をじっくり話しているだろう。

“あー、助かった。後でkicca送っておこう”

 2人の会話を流し聞きしながら、またちまちまとタコの唐揚げをつまむ。

“ほんとに好きだわ、コレ”

 ヴーヴヴ、ヴーヴヴ

 ひろ君から『着いた』との連絡が来た。待たせるのもいけない、そろそろお暇しよう。

「私そろそろ帰りますね」
「え? まだいいじゃん」
「迎え来てるので」
「もう少しくらいさー」

 先輩が、航河君を押しのけて隣に来る。

「いいじゃん!」
「あっ!」

 立ち上がろうとしたあと、先輩に腕をつかまれ、バランスを崩した。

「大丈夫? そんなことしたら、セクハラって言われますよ? 入口まで、送っていきますね」
「あ……ああ」

 航河君に連れられ、店を出た。