第14話:誤算 (涅槃の魔女とひとりぼっちの魔王様)

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 「……お二人も、いらしていたんですね」

 先の声とは打って変わって、低い声が部屋に響いた。表情も硬い。

「……このペンダントは、お渡し出来ないとお伝えした筈です」
「……何のことでしょう?」
「この男に全て聞いた」

 矢面に立たされたマイルスは、既に泣きそうな顔をしている。何処かに何か、縋れるものはないかとキョロキョロと見渡したが、そんなものはない。
 それどころか、オルカが怖い顔をして、『次は左腕だ』と言わんばかりに、自身の左腕を指差した。

 異常に張り詰めた空気に、思わず息を飲む。そして、諦めたのか蚊の鳴くような声で、『ごめんなさい』と呟いた。

「……どうして」
「……こ、この、オルカ様がその」
「どうしてどうしてどうしてどうして!」
「!? ひ……いっ……」
「どうして思うようにいかないの! 何で邪魔するの! ねぇ! 何で!」

 子供が駄々をこねるが如く、布団をバンバンと叩き、大きな声で喚き散らした。

 その気迫に思わず、マイルスが後ずさる。その姿を見て、オルカはトートを自分の背後にやると、自ら前に出た。

「ユタ」
「なんだよ、何なんだよ!」
「──お前、精霊は見えていないだろう?」

 その言葉に、ユタはピタッと手を止めた。そして、今度はプルプルと震え出す。

「はっ、はぁ!? 何を言ってる? 村長の僕が! 精霊が見えない訳無いだろ!」
「いや、お前には見えていない。昔は知らんがな。少なくとも今は」
「何でそんなこと言うんだよ! 見えてるって言ってるだろ! 今だって、その部屋の端にいるさ! お前達こそ、見えないなんて残念だな! あんなに美しい女性の」
「子どもだ」
「──え?」
「この村の精霊は子どもだ」
「そんなわけ」
「リタ」

 不意に呼ばれ、ビクッと身体を揺らす。一度目をゆっくりを閉じて開けると、真っ直ぐにオルカを見据えた。

「お前は精霊が見えているだろう?」
「!」

 驚いた顔でユタはリタを見る。

「……えぇ。見えています。正確には、『見えていた』ですが」
「な、あっ……! 何で……っ……! 黙ってた……ぁ!」

 観念したのか弱々しくも答えるリタに、飛び掛かる勢いで責め立てるユタ。怒りのあまり、上手く言葉を発せない。

「なんで……なん……でぇ……う……うぅ……うあぁぁぁ……!」

 怒ったと思えば、今度は泣き始めた。子どもが泣くような、泣きじゃくる、そう言った方が、しっくりくるかもしれない。

「……兄は……私と兄様は……昔、精霊にあったことがあったんです」

 ポツリ、ポツリと、リタが話し始めた。

 ──

 仲の良い兄弟は、子供の頃からよく2人で遊びに出かけていた。それは、谷底の川だったり、洞窟であったり、女神像のある小さな泉だったり。
 村の外に出ることはなかったが、いつも一緒だった。

 確かそう。それは、ユタが6才、リタが5才の頃。その日も、2人は一緒に出掛けた。出掛ける時はいつも、飛行石を持って出掛ける。そうしなければ、移動が難しいからだ。

 いつもの様に、谷底の川へ行こうと2人は崖から飛んだ。

「──! あぁぁぁあぁぁ──!」

 一瞬だった。一瞬で、ユタはリタの隣から、谷底へと吸い込まれていく。
 いつもと違う上着を着たユタは、飛行石をポケットから抜くのを忘れており、そのことに気付かず、なにもないまま飛び降りてしまったのだ。
 出っ張った岩に足を打ち付け、そのまま最下層まで落下すると思ったその時。

「んんん!」
「ひっ……あ……?」

 1人の女性がリタの横を通り過ぎ、ユタの落ちる速度を遥かに上回る速さでユタの下に回り込むと、ドスン、という音を立ててユタを受け止めた。

「うぅ……だ、大丈夫……?」
「いだい、いだぁぁ……!」

 涙と鼻水で顔をグチャグチャにしながら、足の痛みを訴える。近くにあった平らな岩場にユタを移すと、リタを呼んだ。
 ゆるゆる、ふわり、と、そこに舞い降りるリタ。

「今から見るものは、内緒だよ? 約束、出来る?」
「……うん、ぼく、やくそくするよ!」
「良かった。手を握ってあげていて?」
「うん!」

 リタは泣きじゃくるユタの手を握り、『だいじょうぶだよ!』と声を掛けた。
 その姿を笑顔で見つめた後、女性はユタの足に手をかざし、なにやら言葉を唱え始めた。
 すると、女性の身体が光り始め、特にその、かざした手に光が集まっていき、ユタの足をも包み込んだ。リタには理解出来ない言葉を更に唱えた時、光は一層強くなり、あまりの眩しさにリタは目を瞑った。

「……さぁ。もう大丈夫」

 リタがそっと目を開けると、すやすやと眠るユタと、女性がいた筈の場所に、女の子の姿があった。自分やユタと、そう年も変わらないような、小さな女の子が。

「きみは、だれ?」
「私はファーニャ。ファルナーニアが名前だけど、呼びづらいでしょう? ファーニャって呼んで?」
「ぼくはリタ。こっちはおにーちゃんのユタ。ファーニャは、すごいんだね! ユタはあんなにないてたのに!」
「足を治して、落ち着かせる為に眠ってもらったわ。この谷の上まで送るから、帰りましょう」
「うん!」

 上に戻る間、少しだけ会話をした。ファーニャは風の精霊であること。波長を合わせた人の前に、姿を現わすこと。精霊石は自分が作っていること。それには、エネルギーが必要なこと。そして。

「私に会ったことは、内緒にしておいてね」
「ナイショ! うん、ぼくはいわないよ!」
「良い子ね、リタ。ユタにも伝えて欲しいわ。それじゃあ、また。そうね、また、会いましょう」

 消えていったファーニャに手を振り、リタはユタが目を覚ますのを外で待った。

 ──

「その後、事件が起こったんです」

 リタの話を静かに聞くトートとオルカは、ユタの方を見る。ユタは頭を抱え、泣きながら『ごめんなさい』と、繰り返し呟いていた。



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