第7話:【現在】行きたくない気持ちと (あの時、一番好きだった君に。)

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 今週、歓迎会を行うらしい。私と、航河君の。帰宅時間が遅くなるから、正直、飲み会はあまり気が乗らない。だが、今回は私も主役に含まれているのだ。”遅くなる場合は、途中帰宅OK”を条件に、参加することにした。

 ──行きたくない理由が、実はもう一つある。何度か各プロジェクトの飲み会に参加したことがあるが、総じて【下ネタが多い】のだ。しかも、こちらに話を振ってくる。そんなことは私としてはどうでも良い。
 ハッキリ言って不愉快だし、楽しくない。ニヤニヤしながら話しかけてくるのも、気持ち悪い。それが嫌で、初めの内、新人の頃は毎回行っていた飲み会も、2回に1回、3回に1回になり、半年、一年とその間隔を広げ、段々と近づかなくなった。
 嫌だという意思を伝えたこともあるが、笑っていなされるだけであった。お酒が進んでいくと、ボディタッチが出ることもある。自分より先輩の女性が怒ってくれたこともあったが、次の飲み会ではまた元に戻っていたため、【行かない】という自衛が一番良いということに気づいたのだ。

“あんまり行きたくないけど……”

 仕事中、パソコンを前にして大きく溜息を吐いた。

「どうしたの?」
「え? あぁ、何でもない」

 航河君が声を掛けてくれた。大きな溜息だったから、見逃せなかったのだろう。

「次の飲み会、千景ちゃんも参加だよね?」
「うん。一応」
「一応ってなんで?」
「遅くなりそうだったら途中で帰るから」
「そうなの?」
「話が長くなることが多いからさ。子どもの寝る頃には帰りたいよね」
「確かに。俺も早く帰ろっかなぁ」
「航河君は返してもらえないんじゃない? 主役だし」
「千景ちゃんだって主役じゃん?」
「私は『子どものために早く帰ります!』って言ってあるもの」
「俺も子どもの為に帰るわ」
「航河君子どもいないじゃん」
「そうだった。結婚すらしてなかったわ」

 異動してから2週間ほどで、航河君について幾らかわかったことがある。まず、航河君は今恋人はいない。結婚しているわけでもなく、単純にフリーである。結婚歴もないらしい。あくまでも、本人の自己申告だが。暫くの間恋人はいないし、これからも当分は要らないと言っていた。
 今の会社へは、1年ほど前に転職したそうだ。元々は、全く違う仕事をしていたらしい。販売だったということは聞いたが、詳細は聞いていない。あまり想像はつかないが、販売の仕事とは、何を売っていたのだろう。唯一思いつくのが、ファッション関係だ。
 また、社会人になってから、一人暮らしを始めたそうだ。そういえば、学生時代、まだアルバイトをしていた頃は、航河君は実家暮らしだった。初めは自炊をしていたが、面倒になって専ら外食とのこと。そのせいで、体形が気になってきたらしい。……私に言わせれば、今も昔も変わらないし、なんなら細くて羨ましい。

「飲み会楽しみだなー」
「まぁ、賑やかだよ」
「色んな人と喋ろ」

 ニコニコしながら、軽快にキーボードを叩き始めた。

“こんなに楽しみにしてるなんて。……大きな溜息ついて申し訳ない気持ちになってきたな……”

「航河君、ウチの会社の子、ナンパしちゃ駄目だよ?」
「しないよ! そんな恐ろしいこと!」

 実際、航河君はナンパなんてことはしないだろう。

「千景ちゃんこそ、不用意に連絡先とか教えないようにね」
「あー……断わり辛い時ってあるよね」
「俺が代わりに断わってあげるわ」
「一緒にいる時に聞かれることなんてあるのかしら」
「それこそ、飲み会の時じゃない?」

 航河君は、昔からこんな感じだ。からかっているのか、心配しているのかわからない物言いをする。90%くらいは、本気の心配であると、今までの経験からすると断言出来そうだが。

「そういえばさ、誰だっけ、えっと」
「んん? なに?」
「バイトしてた時の、社員さん。フロアリーダ―だった……」
「……早瀬さん?」
「そうそう! 早瀬さん!」

 あまり思い出したくない名前。だって、あまり良い思い出が無いから。

「突然電話かけてきたんだったよね? 千景ちゃんに」
「そうだよ、んで、ご飯の誘いしてきたの」
「あれ? 結局行ったんだっけ?」
「行ったよ。 ……航河君もついてきたけど」
「思い出した! いや、だってさ、あの人危ない人だった記憶あるもん」
「お陰で二人きりでご飯食べに行かずに済んで、凄い助かった記憶ある」
「マジ? もっと感謝して」
「当時にめっちゃ感謝したわ」

 忘れることはないだろう。

 だって、この出来事が、航河君を意識するきっかけになったのだから。