お空にうかぶ、黄色くて、まんまるで、とっても大きいお月さま。夢にまで見たお月さま。それが、こんなにこんなに、リィナの近くに。
お日さまと違って、あわくて、優しくて、ふんわりした光。
お月さまにリィナのまちを照らしてもらったら。新しい夜を、照らしてもらったら。リィナはワクワクする気持ちが止まりません。
神さまのまほうで、リィナとガルーダは、高い所もスイスイと飛んでいきます。とっても楽しくて、リィナはキャアキャアとはしゃぎながらお月さまの元へと向かいました。
「お月さまー! お月さまー!」
「スヤスヤ……」
「お月さまー?」
「スヤスヤ……」
「……あれれ?」
お月さまは眠っていました。それでも、お月さまのかがやきはステキなものです。
「お月さま? 眠っているの?」
「起こしちゃダメだよ」
「そうだよ、ダメだよ」
「えっ? だぁれ?」
初めて聞く声がします。だれだろう、と、振り向いてみると、そこにはふたごのお星さまがいました。
「ボクは星だよ」
「わたしも星よ」
「わぁ! お星さま! お星さまもやっぱりキラキラなのね!」
近くで見るのは、お月さまだけではありませんでした。
「キミはだぁれ?」
「あなたはだぁれ?」
「リィナはリィナよ。こっちはガルーダさん」
「リィナだね、よろしく。ガルーダさんもよろしく」
「リィナね、よろしくね。ガルーダさんもよろしくね」
「うん、よろしく!」
「キィキィ!」
起こしちゃダメって言われたから、怒られるのかな?と思っていたリィナ。お星さまのごあいさつに、ホッとしました。
「どうして、お星さまを起こしちゃいけないの?」
「お星さまはね、もうすぐ起きるよ。今は元気をためているんだ」
「そうだよ。今は元気をためているの。もうすぐ起きるから、そおっとしといてあげてね」
「んー……でも、リィナ、お月さまにお願いがあるの。リィナのまちに来てほしいの。夜をふんわりキラキラ照らしてほしいの」
お星さまたちは、顔を見合わせました。
「リィナのまちに、やぁっと夜が来たの。でも、お月さまが来てくれなかったら、真っ暗になっちゃう。お月さまだけじゃなくて、お星様にもきてほしいの」
リィナは悲しくなって、泣き出しそうになりました。弱虫ではないけれど、悲しくなる気持ちはちょっぴり苦手です。
「じゃあ、先にボクたちが行くよ!」
「えぇ、わたしたちが行くわ!」
「お友達もよぼう!」
「待っててね!」
お星さまたちは、自分たちのまわりの光を少しだけ切り取って、風に乗せました。フワフワと飛んでいく、キレイな光。
遠く見えなくなったと思ったら、今度は光が飛んで行った方から、もっと明るい光が見えました。
「お友達だね」
「お友達だよ」
それは!たくさんのお星さま。お友達を光でよんだのです。空を流れる川のように、お星さまたちはキラキラピカピカ。
「お星さまの川だ! リィナうれしい!」
「みんなで行くからね」
「お月さまには、お手紙を書いておこうね」
「うん!」
お星さまは、光で文字を書きました。
“今から、初めての夜をむかえる、リィナのまちに行きます。お月さまも、起きたら来てくださいね。一緒にお空を照らしましょう。 星たちとリィナより”
「これで大丈夫だよ」
「これで大丈夫ね」
「ありがとう!」
「暗いと見づらいでしょう? 夜の無かったまちは知っているから、ついてきてね」
「お友達の流れに乗ってね、ついてきてね」
「はぁい!」
リィナは星の川をわたります。今にも空からこぼれ落ちそうなくらいたくさんの星たち。それは、まっすぐとリィナのまちへと伸びていきます。
お星さまの川の流れに乗って、リィナのまちへ向かっていると、なんだかリィナも、お星さまになった気分になりました。
「ここだろ?」
「ここでしょう?」
そこは、間違いなくリィナのまち。せっかく夜が来たのに、暗くて光のないまちでした。
「おお! おかえりリィナ。おや、そっちはおほしさまたちじゃないかね。お月さまは、どうしたんじゃ?」
「お月さまはねてるよ」
「もうすぐ起きるわよ」
「先にお星さまが来てくれたんだよ」
「そうかねそうかね。少し待とうかね、その方が、ステキな夜になるじゃろうて」
「リィナ待つよ!」
お月さまが来るまで、みんなお空で待ちました。その間、ピカピカ順番に光るお星さまと追いかけっこをしました。
追いかけっこはやがて流れ星になり、誰かの願いごとを受け止めます。
「お星さまって、本当にキレイね」
「ありがとう! うれしいよ」
「ありがとう! うれしいわ」
お月さまが来るよりも前に、リィナのまちにたくさんの人が見えました。きっとみんな、急に街が暗くなったから出てきたのでしょう。お星さまの方を指差して、じぃっと見ている、と、神さまが教えてくれました。
「お月さままだかな。リィナ待ちくたびれたよぉ」
「もうすぐだよ」
「もうすぐだわ」
ガルーダもどこかねむたそうです。リィナもねむたくなってきました。
「まだご飯食べてないのに。……夜ごはんの時間になっちゃう!」
リィナはすっかり忘れていました。お母さんに『夜ごはんの時間までには帰ってくるのよ』と言われていたことを。
「おーい! おまたせ!」
やっとやっと、お月さまがやってきました。ここからが夜の本番です。