第6話:【現在】帰宅 (あの時、一番好きだった君に。)

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 「ただいまー」
「お帰りー」
「ただいま、千景。あー、お腹空いた」
「今日はキーマカレーね」
「おっ、嬉しい。俺の好きな奴」
「パパおかえりー」
「ただいま夏乃」

 帰って来た。私の大好きな尚宏君。大切な夫だ。今から6年前、まだ社会人2年目の頃に結婚した。付き合った期間は1年ほど。結婚してすぐに子どももでき、夏乃が生まれた。周りからよく『結婚が早い』なんて言われたが、自分ではそんなこともないと思っている。
 付き合うまで、知り合って付き合うまでは1年半ほど、付き合って1年、そう考えたら、友達の期間だって、一緒にいたのだから。

「今日は早かったね」
「何とか今日中の仕事、終わらせられたからね」
「お疲れ様」
「おお、千景もな」

 ひろ君は家でもよくしてくれる。ご飯を作れば洗い物をしてくれるし、私が手を離せない時は、千夏と遊んでいる。休みの日はご飯も作ってくれるし、家族で出かけることも多い。私が仕事で遅くなっても、ひろ君の帰りの方が早い時は、代わりにご飯も作ってくれる。──圧倒的に数は少ないが。
 きっと、世間から見たら『よき夫でありよき父親』だろう。──私もそう思う。

「やっぱり、千景の作るキーマカレーは旨いな」
「ありがと」
「なつのもカレーたべたーい!」
「んー……夏乃にはちょっと辛いかもしれないからなぁ。その、オムライス食べて、ね?」
「ぶー。はぁい」
「次のお休みは、夏乃も食べられるカレーにしよっか」
「わーい! なつのカレーすきだもん! ママやくそくね!」
「はいはい。という訳で、次の休みの日は宜しくね、ひろ君」
「はいよ。パパ頑張るよー!」

 連日帰りが遅かったり、休日出勤の続く日は、喧嘩をしたりもする。出来ていた筈の分担が出来なくなり、全てがこちらに振ってくるからだ。しかも、そういう時に限って、私も仕事で遅くなったりする。それでも、やることは変わらず、むしろ増えるのだから。
 先日、確か三か月ほど前も、「有休とって一緒に買い物に行こう」とひろ君に誘われたのに、前日になって『仕事になった』と言われた。自分でした約束は守って欲しいものだが、仕事だから仕方ない、という気持ちも勿論ある。言ったって仕方のないことも分かっている。私は私なりに、葛藤しているのだ。あの時は、また今度行く約束と、好きなお店のケーキで手を打ったっけ。
 ちなみに、その時の約束は、未だ果たされていない。

 食事も終わり、お風呂も済ます。全てが終わって、のんびりと布団の中で過ごす時間が、至福の時だ。その時、隣でスヤスヤと寝息を立てて眠る夏乃が愛おしい。こうやって見ると、赤ちゃんの時から変わっていないようにも見える。子どもの寝顔というのは、どうしてこんなに可愛いのだろう。普段の怪獣っぷりからは、とても想像出来ない。

「あー、マジ可愛い。何度でもちゅーしたくなるわ」

 頬をスリスリとすると、スベスベしてとても気持ちが良い。柔らかい頬にキスをして、『おやすみなさい』と呟いた。

 ヴーヴヴ、ヴーヴヴ──

「ん?」

 スマフォが鳴る。メールだ。差出人は……

「航河君?」
『お疲れ。今日はビックリした。まさか仕事で会うなんてな。まぁ、昔みたいに宜しく。あと、kiccaやってる?ID教えて』
「まー……確かにメールよりkiccaの方が皆使ってるよね」

 私はkiccaのIDをメールで航河君に送った。すぐにkiccaにメッセージが届く。既読がわかることが煩わしい人も多いようだが、チャットのように使えるし、スタンプも沢山あるし、絵文字も使い易い。専ら最近は、このメッセージアプリを使用している。電話が無料なのも魅力的だ。

「……これがあの頃にあったら、メールの返事より、既読に対して一喜一憂してたのかな」

 そうだ。私は、大学時代好きだったのだ。

 ──航河君のことが。

 誰よりも、何よりも。

「あはは、絵文字が多いのは、相変わらずだね」

 懐かしさがこみ上げる。私が結婚してから、航河君とは連絡を取らなくなった。正確には、彼からのお誘いに対して『結婚したから、2人では会えないな』と返事をしたところ、その返信が無かったのだ。それから、一度も連絡はしていない。

「あれ? 千景、なんかご機嫌だね」

 お風呂から上がったひろ君が、声をかけてきた。

「そう? あぁ、今日ね、異動したんだけと、その異動先に昔バイトで一緒だった子がいたの。凄い偶然」
「へぇ、それは凄いね」
「懐かしいなぁって。それかも」
「成程。知ってる人いると、安心だよね」
「だよね。ちょっとほっとした」

 そう、私はほっとしたのだ。今日、知っている人が、異動先にいたことに。