まず、リィナは、まちの広場へと向かいました。いつもたくさんの人がいる広場なら、夜がどこにあるか、知っている人がいるかもしれない。そう思ったからです。
広場までの道のりをリィナは、夜やお月さま、お星さまのことを考えながら、ルンルンランランと、歩いて行きました。
広場につくと、そこにはやっぱりたくさんの人が。でも、よくよく見てみると、いつもとふんいきが違います。
「どうしたんだろう?」
不思議に思ったリィナは、近くにいたおじさんに声をかけました。
「ねぇねぇ、おじさま?」
「おや? おじょうちゃん、どうしたんだい?」
「今日はいつもより、たくさんの人がいる気がするの。みんながいるあの真ん中には、一体何があるの?」
「あぁ、あそこにはね。『ガルーダ』がいるんだよ」
「ガルーダ? それはなぁに?」
「ガルーダはね、怖くて悪い、大きな鳥さ」
とても大きくて、するどいツメとクチバシを持つガルーダ。それは、人間たちをおそう、と、みんなから嫌われているそうです。おじさんが、教えてくれました。
「わたし、見にいってみる!」
「おじょうちゃん! 危険だよ! 待ちな!」
おじさんの言うことも聞かず、ガルーダのいる方へと、リィナは走り出しました。
人の波をかき分けて、たどり着いたリィナの目にうつったのは、大きな大きな、見たこともない鳥でした。
リィナよりずっと大きくて、お母さんがたてに二人分かなぁ。そんな風に考えました。
ガルーダは、羽を休めるようにうずくまっています。その目には涙を浮かべながら、人間たちを順番ににらみつけていました。
にらみつけられた人間たちは、その場から動くことができません。だって、いつおそわれるかわからないから。
「わぁ……大きい」
リィナの声に気付いたガルーダは、今度はリィナをにらみつけました。
「ガルーダさん? どうしたの? 涙を流して、どこか痛いの?」
「近づいちゃあダメだよ!」
「食われるぞ!」
「どうして? だれか食べられちゃったの? ケガしちゃったの?」
「いや……そうじゃあないが……」
「ならどうして止めるの? ガルーダさんは
動かないのに」
「そいつはまだ子どもだ。どこがで親が見ているかもしれない」
それでも怖がることなく、リィナはガルーダへと近づいて行きました。そして、動かないガルーダの足元まで行き、しゃがみこむと、なにかを探し始めました。
小さな手でガルーダの体を触ります。
「あぁ、これが痛かったのね。待って、今取ってあげる」
そう言って、ガルーダの足に刺さる、自分の手の親指くらいのトゲを引き抜きました。
「キィィ──!」
一鳴きしたガルーダの周りから、人間たちがはなれて行きます。
「こんなに大きなトゲがささっていたのに、さわがずにじっとしてたの、おりこうさんね」
リィナは、リュックからバンソウコウを取り出すと、キズぐちの上から優しくはりました。
「もうだいじょうぶ」
ニッコリ笑ったリィナにつられ、ガルーダも目を閉じてほほえみました。そして、顔をよせて、リィナにスリスリとすりよります。
「あはは、くすぐったい」
ガルーダの体は大きくて、とてもリィナのうでは回りませんが、体をよせてみると、とてもあたたかくて、じんわりとやさしい気持ちになりました。
そこへ、さっきお話をした、おじさんがやってきました。
「おい、いいかげんはなれなさい」
「どうして?」
「ガルーダはキケンだ」
「この子が何かひどいことをしたの?」
「違うが、そう決まっている」
「どうして決まっているの?」
「大きいし、なによりこいつらはきょうぼうだ」
「誰かがおそわれたの?」
「……いや、でも他のやつらが」
「ならどうして決めつけるの? この子はきっと、痛かくて助けてほしかったから、だからみんなを見ていたんじゃないの?」
「……でも、ガルーダは悪いと聞くし、それににらむなんて……」
「痛いのをガマンして、でも助けてもらえなくて、そんな言い方ひどい!」
リィナはうでを組んで、おじさんをにらみつけました。ぷくぅとほほをふくらませ、プンプンと怒っています。
「他がそうなら、みんな同じなの? おじさまはリィナより大きいけど、リィナをいじめるの?」
「そ、そういうわけでは」
「じゃあガルーダさんはいい子かもしれないじゃない。ね、ガルーダさん」
それに答えるかのように、「キィ」と一鳴きすると、ガルーダはリィナの後ろにつき、見守るように身がまえました。
「リィナは夜をさがしに行くの。おじさん、夜ってどこにあるか知ってる?」
「よ、夜? 夜は神さまが作るんだろう。神さまに会いに行けばわかるんじゃあないのか?」
「神さまはどこにいるの?」
「そうだな、あの七色のにじの向こう、半分にじがくもに隠れているだろう? その先の空のずっとずっと上にでも、すんでるんじゃないかねぇ」
「じゃあ、リィナお空の上に行く!」
「おいおい、じょうだんだぞ」
にじの向こうなら、にじを渡ればいいのかなぁ。なんて考えながら、リィナはまちの外に向かって歩きます。おじさんの声は、聞こえていません。
ザッザッと、その後ろをガルーダがついてきます。
「ガルーダさんも、いっしょに行く?」
ウンウンとたてに首をふると、リィナの横によりそいました。
「よろしくね、ガルーダさん」
リィナはガルーダといっしょに、にじに向かって歩き始めました。