「おはよう」
目を覚ました少女。リィナは6才の女の子です。いつも、決まった時間に眠り、決まった時間に目をさまします。
「時間は7時、お日さまの形が上だから、今はちゃんと朝ね」
リィナのおうちにかざってある、その時計には、1から12の数字とそれをきざむハリ以外に、二つの絵がかかれていました。
それは、『お月さま』の絵と、『お日さま』の絵です。ニコニコ笑うお日さまと、スヤスヤ眠るお月さまが、数字をはさんで反対側に描かれていました。
時間が進むと、お月さまとお日さまが、同じように数字の周りをグルリと回ります。
9と3をまっすぐ結んだ線の上に、どちらが顔を出しているかで朝と夜を決めていました。
なぜ、そんなことをするのでしょう。
それは……
「ねぇお母さん! 本当に『夜』はあるのかしら?」
リィナはお母さんに問いかけます。
「もちろんよリィナ。お母さんが生まれた村には、夜があったのだから」
お母さんは答えます。
「じゃあどうして、リィナのまちにはないの?」
「さぁ、どうしてでしょう。お母さんにも、わからないわ」
「お母さんは、夜は好き?」
「えぇ、好きよ。お星さまがキラキラかがやいて、お月さまがやわらかい光で、みんなのことを包んでくれるの」
夜の話をするお母さんはとても楽しそうでしたが、夜がないことの話をすると、どこか悲しそうでした。
「それなら、リィナが夜を取ってきてあげる!」
リィナの住むまちには、どこにでもあるはずの『夜』がありませんでした。そのまちで育ったリィナは、何もギモンを感じません。
でも、大人や他の場所に住む人たちの話を聞くと、夜がとてもステキなモノに感じました。
なにより、大好きなお母さんが、あんなにあんなに楽しそうに、夜の話をするのです。そんな夜がステキじゃない、なんて、考えられません。
夜を知らないリィナは、『お月さま』と『お星さま』のこともよく知りませんでした。
知っているのは、お月さまが時計に描かれている見た目だということ。お星さまと一緒に、夜になると光るということ。
そして、きっとどちらも素晴らしいものだろう、ということだけでした。
「お母さんに、また夜を見せてあげたいわ。だからリィナ、ぼうけんに出かけるの!」
小さなリュックに、お腹が空いた時のおかし、ノドがかわいた時のジュースをつめこみます。オマケに、ケガをした時のバンソウコウ。
「できた! いってきます!」
「あらあら、うふふ。いってらっしゃい。夜ご飯までには、帰ってくるのよ?」
「はぁい」
お母さんは 、『何を持って帰ってくるのかしら』と、いつもと変わらない調子でリィナを見送りました。
けれども今日は、いつもと違ったのです。リィナは本当に、『夜』を探すために、出かけていったのでした。
パンパンに膨らんだリュックと、夜に会いたい気持ちを半分、お母さんを喜ばせたい気持ちを半分持って。