第3話:生まれながらの強さ (涅槃の魔女とひとりぼっちの魔王様)

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 魔王城より、道なりに進む。
 『あまりにも目立つから』と、オルカの絢爛豪華な魔王衣装の装備は、トートの手によって剥がされていった。
 残ったのは、真っ黒の上下を着て、腰に剣を携え、髪を一つに結った所謂男前な魔王様。

「そっちの方がいいんじゃない? 好青年、って感じよ。なんか、目つきは悪いけど」
「……身体は軽くなったがな。落ち着かぬ」
「すぐ慣れるわよ。どうせ、魔王なんでそもそもの強さがチートみたいなもんだし。あんなよく分からない装備なくたって、簡単にはやられないでしょう?」
「言ってくれるな。……まぁ、否定はしない」
「その辺はまだ『魔王様』よね」
「何を言う。私は魔王だ。当たり前だろう」

 意外にも、2人は会話を弾ませながら歩いて行く。時々、揶揄いが過ぎて、腰の剣を何度か抜かれそうになったが、それでも側から見れば『仲良く』歩いている様に見えるのではないだろうか。

「地図や看板が何もないが……。 お前は道が分かるのか?」
「トート、よ。道は分かるわ。何年生きてると思ってるのよ」
「脳味噌は年老いたりしないんだな」
「なによその言い方。アンタよりずっと詳しいしなんなら賢いわ」

 言い合いを続けながら、どんどんと先へ進んで行く。
 魔王城周辺は、特になにもない。遠くの方に山らしきものが見えるものの、長く長く平坦な地面が広がっていた。

 昔は、この辺りに森が生い茂り、魔物達が蔓延っていた。
 魔王城のすぐ近くというだけあって、随分と強い魔物もいたらしい。そして、当たり前かもしれないが、蔓延ると言われるくらい、その量も多かった。

 だから、この辺りに来るのは勇気が要るし、そんな勇気を持った人間はあの勇者一行くらいであった。
 それに、魔王城に近ければ近いほど、その土地に住む人間達は、強い軍隊を持っていた。

 今、そんなことを気にする人間はいない。魔物の脅威は、とっくの昔に消え失せたのだ。

 寧ろ、気にしなければならないのは……

「……おい、お前等!」
「……え?」
「うん?」

 そこには、大人の男達が3人。彼等はボロボロの服を着て、随分と荒んだ身なりをしていた上で、何故か震えた手にはナイフと呼ぶには大きい刃物を持ち、トートとオルカの前に立ちはだかった。

「女連れか。まだガキだが、そろそろいい仕事するんじゃあないか?」
「身なりは良さそうだ。金を持っているだろう」
「女と金を置いていけ。じゃねぇとぶっ殺すぞ!」

 男達は口々に言いたいことを言う。

「はぁぁ!? 誰がガキよ! 私は立派なレディなんですけど!? 頭にくるわね!」
「この女のことはどうでも良いが、生憎カネはない。というか、カネとはなんだ」
「ちょっと! どうでも良いことないでしょう! ……って、貴方お金知らないの!?」
「等価交換か何かか? そんな面倒なことをするよりも、単に奪えばいいだろう」
「いいわけないでしょう!」

 怒りながら叫ぶトートと、ないものはない、と、あくまでも冷静に答えるオルカ。
 片方がギャアギャアと喚き、片方が諌める訳でもなく、好きにモノを言う。

 酷くアンバランスな2人に、口を挟もうにも挟めない男達は、段々と苛々し始めた。

「あぁもう、お前らうるせぇな! いい加減にしろ! さっさと女と金、金目のもん置いていけ!」
「そうだそうだ! じゃねぇと刺すぞオラ!」
「女連れでやる気か? あぁ!?」

 血の気の多い男達をひと睨みすると、オルカは腰の剣を抜く。

「……面倒くさいことは嫌いだ。だが、そんなに殺りたいならば、相手になるが?」

 そしてその鋒を、真っ直ぐと男達の中の1人に向けた。

「力の差、と言うものを知っているか?」
「……ひ……ぃ……っ……!」

 刃を向けられた男は、思わず後ずさる。

 この瞬間のオルカの瞳は、怪しく光るような、鈍く濁るような、そんな瞳をしていた。

 トートは息を呑む。生まれたばかりの魔王だが、そのオーラと内側から発せられる魔力は、相当なものだった。
 恐ろしく、強い。それでいて、非道と思えるような、そんな冷たさが感じられた。
 もし、色に例えるとするならば、それは吸い込まれそうな漆黒で、ひんやりと冷たいアイスブルーを外側に纏う、黒と青の世界。

 きっと、他の人間達に、この魔力は分からないだろう。かつて、魔王に呪いをかけられた自分だけが分かる。その力。
 今はもう、自分以外に、この魔力の何たるかを知る人間はいないのだ。

 ゾクゾクとした不思議な感覚が、トートの身体を駆け巡る。この感覚が何なのか、トートには分からなかった。

「それで? 『誰』を殺すんだ? 私か?」
「あ……ああ……」
「死ぬのはお前達だ」

 ズズ──ッ──

「が──あっ──」

 男が何かを言う前に、オルカはその剣で男の身体を突き刺した。刀身が身体の中を進む。

 そのまま剣を引き抜くと、抜いた場所から血がコポコポと溢れた。血で濡れたその剣から滴る赤が、男から流れる血と共に、更にポタポタと地面を赤く染める。

 スンスンとオルカが鼻を動かす。血の匂いを嗅いで、そしてニヤリと笑った。

「他愛も無い。次はどっちだ。まぁ、私は2人まとめてでも構わないが」
「くっ……! オイ! 逃げるぞ!」
「せめて女だけでも……」
「あんな奴に、勝てる訳ねぇだろ! 女に近付いたら、俺達もやられんぞ!」

 上ずった声を発しながら、男達はオルカから目を離さないように、後退りをする。

「……おい。邪魔だ。ソレも持っていけ」
「ひ……は、はいっ……!」
「絡む相手を間違えたな」
「ひぃ──ああああ──!!」

 更なる睨みをその身で受け止めながら、男2人は刺されて動かなくなった男を担ぎ、その場から離れていった。

「……凄い」

 トートは声を漏らした。本当に、魔王が、オルカが目の前にいる。待ち侘びた存在が、思ったまま、此処に。

「……人間とは、刺されたらああなるものだ。お前はおかしい」
「だ! か! ら! 誰のせいだと思ってんのよおぉぉ!」
「適当なモノと一緒に、あのまま引き渡しても良かったのだが?」
「……非常に感謝しております、魔王様」

 グッと拳を握り、引き攣った笑顔を浮かべて頭を下げるトートを、オルカは目を細めて眺めた。

「分かれば良い」
「……先が思いやられるわ」
「それは私の台詞だ」
「はあぁぁぁ!?」

 まだ、一つ目の街にも着いていない2人。暫くこのじゃれ合いは続くのであった。