崩れかけた城に、少女が独り。
「どうして、私がこんな目に会わなければいけないの? 私が、一体何をしたというの?」
目に涙を溜め、誰もいない部屋で1人呟く。
辺りは暗く、生き物の気配はない。
少女の目の前には、『なにかの死骸』が、横たわっていた。
「どうして死んでしまったの? 何故私を置いていくの? ……どうして。どうして!」
その死骸に縋り付く様に、少女は覆い被さった。
少女の身体には、無数の傷。一部は抉れ、一部は血が流れる。
何かと戦ったような、あるいは、何かに襲われたような。普段の生活では、絶対につかないであろう傷。それが、彼女の身体を埋め尽くしていた。
「置いていかないで! 貴方がいなければ、私は……私は……」
嗚咽混じりの鳴き声が、静寂の中ただ一つ響く。
少し離れた場所に、別の何かの死骸が3つ。同じ様に横たわっている。
少女はその死骸には目もくれず、目の前の死骸にただただ泣き叫んだ。
「独りにしないで……。お願いだから、私も死なせてよ……。ねぇ……オルカ……」
ガラガラと、何かの崩れる音がする。
此処は魔王の城。99代目の魔王が死に、主人を失った城は、今にも全て無に帰ろうとしていた。
「神様……ねぇ、神様……。アナタがもし本当にいるのなら……私の願いを叶えてよ……」
その声は響くだけ。
「私を、私を独りにしないで……!」
ザァザァ──ザザザザザ────
遠くの方で、雨の降る音がした。同時に、ゴロゴロと雷の音も聞こえる。
窓から差し込む雷の光が、少女とその死骸の影を映し出した。
童話の一部を思わせる、何処か幻想的なその場面は、切り取ることが出来たらさぞかし悪趣味で綺麗だろう。
「お願い……お願いよ……」
雨脚は強くなる。雷の音も近い。
それは、神の肯定の返事か。
それとも、否定の返事か。
「うぁ……うああぁああああぁぁ──!!」
その雨は少女の心を映し出すかの様に、いつまでもいつまでも降り続いた。